会報・文楽通信
第4号(2005年10月5日発行)
「新体制としての抱負」
特定非営利活動法人 人形浄瑠璃文楽座
鳥越文藏
技芸員全員の投票によって新しい理事が決定した。当NPOの設立に尽力し、組織を完全に統括していた豊竹小松大夫を失ったことは言語に絶するほど惜しまれるのであるが、天に逆らえぬこと故覚悟せざるをえない。新理事の蜜なる協力により一層の成果を期待しよう。
さらば成果として如何なることが目論めるのであろうか。最優先すべきことは技芸員の芸の向上である。稽古によって芸を研くことは各人の責務であり、NPO が云々する問題ではない。組織として実行しなければならないことは、舞台経験につながる活動であろう。小一座の私的興行でも多いのが望ましい。組織としても努力し、また応援もせねばならぬ。
次に観客層の拡大に努めねばならぬ。私の身近な見聞を述べる。西の方の小さな都市で素浄瑠璃を聞き、一週間後地方公演を観た中学生が、アンケートに「文楽に入りたい」と記していた。彼が友人たちに文楽の魅力を吹聴してくれたと信じる。観客の掘起しも、本物の芸に接せさせることに尽きる。これは国内に限らないので、海外公演にも積極的になるべきであろう。
次には作品選定の問題がある。ある研究者と共同で取組み、廃曲寸前のものの演奏会が催された。盛会で、反響も大であった。かかる活動も大切である。また、現代語による演奏も時に試みられているが、古典の現代語訳による演奏も射程に入れてみては如何であろう。
以上のことはNPOの組織だけでは力の及ばぬことは承知の上での発言であるが、努力は惜しまないことにする。
連載コラム【文楽こぼれ話し】 『番 付』
高木浩志(文楽研究家)
上演年月日や座名・狂言建て・配役等を記した案内用の刷物ですが、後世には、興行の記録として、最も重要な資料です。
いつからあったのか知りませんが、現在目にする最古の物は、正徳五年(1715)の『国性爺』。江戸時代は、年号の記載がなく、稀に干支が記されていますが、年月の特定に難儀します。
学生時代、古本屋で探す一方、山城少掾の重複保有分を随分頂戴しました。
大正時代では、十代弥七が胡弓で初舞台と記憶していた竹豊座興行が、最後まで見つからず苦労。大夫は床本に挟んでいる事が多いので、遺族を尋ねて、大阪と今日とは虱潰し、山口や和歌山や姫路まで参りました。
昭和でも、終戦直後は物資不足で印刷されず、三和会のもガリ版刷の不鮮明な物。弥造が所持していた物は、全て拝領しましたが、〔来る一日より〕では、何年何月かさっぱり。弥造の宿屋のメモがとても役立ちました。
そんなこんなで、江戸から今月までの九割を所有する私の物好きには呆れます。
昨今は、チラシとプログラム。元々番付には、三業の格も示されていました。因会では、昭和32年7月が最後でしたが、一度だけ国立文楽劇場で復活されています。
座紋の下に名を記す大夫が紋下で最高位。山城少掾引退後は廃れた制度です。現在のプログラムでは、頭に切と書かれた住大夫・綱大夫・十九大夫・嶋大夫が最高位で、口上でも切場なら「只今の切」と紹介されます。
現在三味線欄は無く、頭に三味線と記される寛治が最高位です。三業ともに字の太さや三味線では沢の字の区別も序列を示します。
人形欄は存続していて、左の筆下が座頭で玉男、筆上で隙間がある別書出しの簑助・文雀が続き、あとは左→右とちどりに読むのが約束です。役の無い足遣いに、仮に町人とか腰元と記されているのはユーレイです。
他に、顔付というものも毎年発行され、年功に従い、平人→中老→古老→大夫or三味線or人形格、と進みます。
平成16年度事業報告
■平成16年度事業報告
(1)「いずみ子ども文楽の会」への講師派遣
2004年4月より、月2〜3回の指導を行い、2005年3月27日発表会が開催された。
(2)大阪市中央区「子ども義太夫教室」
中央区生涯学習区民会議の開催する「子ども義太夫教室」への指導講師を派遣。
2004年6月〜2005年4月までの間に20回指導を行い、4月29日発表会開催。
(3)中央区主催「文楽鑑賞教室」および「文楽へのいざない」への出演
2004年8月10日、中央区役所庁舎のロビーにて実演、また2005年3月17日、中央区民センターホールにて、「傾城阿波鳴門 順礼歌の段」を上演。
(4) 第1回御堂筋「水と風のみちまち」シンポジウムにて実演
2004年12月3日、大阪市中之島中央公会堂にて「艶姿女舞衣 酒屋の段よりお園のさわり」を上演。
(5)横須賀市市民大学講座への講師派遣
2004年11月〜3月にかけて、全8回の講座に鳥越理事長ほか派遣。
(6)その他の事業
上方古典若手公演、西宮市文楽教室など。
■平成17年度事業計画
(1)「いずみ子ども文楽の会」への講師派遣
昨年に引き続き講師派遣依頼を受け、継続中。
(2)横須賀市市民大学講座への講師派遣
昨年に引き続き、講師派遣依頼を受け、鳥越理事長ほか派遣の予定。2005年11月〜3月の隔週土曜日の予定。
(3)中央区生涯学習区民会議開催「子ども義太夫教室」への講師派遣
昨年度に引き続き、指導講師の派遣。高津神社内高津富亭及び社務所内で開催。
(4)その他
老人ホーム慰問、地方の人形座への講師派遣、各地での文楽教室の開催の予定あり。
【報告】寄贈人形の使用状況について
昨年、兵庫県洲本市の松谷早苗氏より御寄贈いただきました人形のかしら首35点のうち、6点の修理、調整が終わり、新調した衣裳、小道具共々、本年1月から人形解説や小公演等で使用させて頂いておりますので、御報告申し上げます。
<使用状況>
- お園(娘首)
- 5回
- 三番叟(又平首)
- 9回
- 三番叟(検非違使)
- 13回
- おつる(子役の娘)
- 2回
- 解説用(文七首)
- 9回
- 解説用(鬼一首)
- 6回
7月末現在の使用回数ですが、ご覧の通り、NPO法人の活動、文楽の普及に大変役立っております。
これからも大切に使わせていただきます。ありがとうございました。
(桐竹勘十郎)
三宅晟介氏所蔵の写真
四十年余りに亘って、文楽の舞台写真を撮り続けてこられた三宅晟介氏は、常々「私が撮った写真は、技芸員の皆さんの役に立てていただきたい」とおっしゃっていました。写真は、作品としても、また資料としても非常に価値のあるもので、その数はおよそ四千点にものぼります。
惜しくも、三宅晟介氏は一昨年八月に亡くなられました。そしてその年の暮に、故人のご遺志を受けたご家族様が、我々技芸員に写真のすべてをご寄贈くださいました。
当時の事務局長の豊竹小松大夫は自身も病床にあり「ご遺族の方に是非お礼も申したいし、三宅先生のご霊前に手を合わせたい」と申しておりました。しかし残念なことに昨年の夏に急逝、残された私どもがお二人の想いを無駄にせぬよう、ただ今、写真の分類、管理の作業を進めております。
この場を借りまして、三宅晟介先生およびご遺族様に御礼申し上げますとともに、これらの写真を『NPO法人人形浄瑠璃文楽座』として有効に活用させていただきたいと思っております。
(吉田勘市)
【レポート】「伝統の一戦?! 文楽パペッツvs義太夫アクターズ」
去る6月13日午後7時より文楽人形部の草野球チーム「文楽パペッツ」は大夫・三味線部の新生「義太夫アクターズ」と親善試合を大阪ドームで行いました。
20年余り途絶えていた床のチームが復活しての”伝統の一戦!?“ 始球式は40年ぶりのユニホームを着たという住大夫師匠が投手、捕手は前近鉄監督の梨田昌孝さん、バッターボックスには裃?姿の簑助師匠という豪華版で始まりました。住大夫師の美しい投球フォームや簑助師匠の力強いスイングに約200人のお客様や家族の皆様も拍手を惜しみませんでした。
試合は往年のプレーヤーの団七。英のハツラツとした動きや若手の元気一杯の珍プレーなどが続出し、選手も観客も笑いころげたり舌を巻いたりの楽しいひとときでした。
この試合のために協力して頂いた大阪ドームの関係者の皆様、審判で汗を流して頂いた文楽協会の塚本さん、ゲームを盛り上げてくれた梨田前監督に深謝。お疲れ様でした。
(吉田勘緑)
書評 【新刊紹介】
富岡 泰(劇評家)
(杉山某日案著、内山美樹子・桜井弘著、岩波文庫)
近代における義太夫節研究の源流が文庫本で復活した。しかも、初版・復刻版ともに未収録だった雑誌掲載分を「増補」として加え、名人の芸話と著者の造詣の深さが全95項目80作品から滲み出る、決定版となった。各項目毎に付けられた詳細な「注」には、現在までの義太夫節研究の成果が凝縮されており、初心者・専門家を問わず、読者のあらゆる疑問を氷解させてくれる文楽ファン必携の名著。
○『文楽ざんまい』(亀岡典子著、淡交社刊)
産経新聞に60回連載された記事にインタビューを追加した紹介書。キーワードによって文楽の多面的な魅力を探ろうとする第一章が、簡潔にまとめられ理解しやすい。若い技芸員のために一章を設けた構成に、文楽の将来を見守って行こうとする著者の姿勢が伺われる。
○『咲甫大夫と文楽へ行こう』(豊竹咲甫大夫著、松平盟子協力、旬報社刊)
古典芸能各界の若手を案内人に見立てた入門シリーズの文楽編。イラストや写真を多用し、現代の一青年咲甫大夫の生活を通して文楽の世界を垣間見ようと試みている。最終章のインタビューから、著者の素顔が感じ取れる。
○『あらすじで読む名作文楽50』(高木秀樹著、世界文化社刊)
こちらも「あらすじで読む」シリーズの文楽編。上演回数の多い作品50本の、登場人物・あらすじ・観どころ聴きどころを解説している。著者はイヤホンガイドの解説者で、「ここを観て聴いて」の指摘が具体的で分かり易い。
新理事ひとり一言
豊竹十九大夫(副理事長)
豊竹松香大夫(庶務、芸団協担当)
豊竹英大夫(事務局次長)
竹本三輪大夫(広報)
鶴澤清治(専務理事)
豊澤富助(企画)
鶴澤清介(企画、著作権)
鶴澤燕二郎(会計)
桐竹紋寿(常務理事)
桐竹勘十郎(著作権)
吉田玉女(事務局次長、企画)
吉田勘市(賛助会員)
事務局より
このたび、ご縁あって事務局でお手伝いさせていただくことになりました。本来の舞台に立つ仕事とは別にNPO文楽座の仕事もされている理事の皆様が、少しでも負担が軽くなり、本業に集中できるよう舞台裏を支えていければと思っています。
現在、NPO文楽座では、いくつかの事業を抱えております。大きな柱となっているのは、子どもたちへの指導です。多忙な公演スケジュールの合間をぬって、正会員(技芸員)が指導を行っております。定期的に指導しているものと、単発とありますが、今後も文楽の普及ためにも継続していくべき事業だと思います。
また、正会員の皆様の肖像権・著作隣接権を管理する団体として、様々な問い合わせがあるようです。適切、迅速な対応ができるように心がけたいと思います。
さらに、1000名近い賛助会員の皆様には、担当理事とともにサービスの充実を図りたいと考えております。新規入会も随時受け付けておりますので、これを機会に、ご意見、ご希望も含めまして、事務局までお気軽にお問い合わせくださいますようお願い申し上げます。
(峯田悦子)
編集後記
新しく選出された理事による新体制がスタートしました。事務所移転等で混乱し、賛助会員の皆様には更新手続きのお願いが遅れたり、少なからずご迷惑をおかけいたしましたこと、改めてお詫び申し上げます。事務局専任で峯田悦子さんがいてくれますし、必要な事務用機材も整いました。「文楽通信」も少しづつでも、内容あるものにしていきたいと思っております。定期的に発行できる事が第一です。正会員と賛助会員の皆様との良き橋渡しとなれればとも願っております。
今号につきましては高木浩志氏、富岡泰氏にお忙しい中、ご無理をお聞き入れいただきました。厚くお礼申し上げます。
皆々様にはご支援をお願い申し上げますと同時に、ご意見、ご要望をお寄せいただけたらと思っております。
なお最後になりましたが、本年5月、文楽協会事務局次長として、ご尽力頂いた大内晶氏が急逝されました。ご冥福をお祈りいたします。
(竹本三輪大夫)



